| 音楽論 |  はじめての音楽史

第1章 古代ギリシア

◆ムーシケー概念
◆叙事詩から抒情詩へ
◆劇音楽の発達
◆ピュタゴラス派とプラトン
◆アリストテレスとアリストクセノス
◆ギリシアの音組織
◆ギリシアの楽譜





◆ムーシケー概念

日本語  「音楽」
英語   「ミュージック」
ドイツ語 「ムジーク」
フランス語「ムージカ」
ギリシア語「ムーシケー」

詩と音楽と舞踊 包括概念

ピンダロス(前6世紀後半〜前5世紀前半) 競技勝利歌
『オリュンピア』『ピュティア』『イストミア』『ネメア』
音楽的に節づけられ集団で踊られた

フリュにス、ティモテオス(前5世紀〜前4世紀)
言葉(詩)の要素を重んじる


◆叙事詩から抒情詩へ

ホロメス(前800年前後)二大叙事詩 口承詩
『イーリアス』24巻 トロイア戦争を扱いアキレウスが活躍
『オデュッセイア』24巻 トロイア戦争後オデュッセウスのギリシアへの帰国

日本『古事記』『平家物語』
琉球『おもろそうし』
アイヌ『ユーカラ』

スパルタの音楽家(前7世紀)

□テルパンドロス キタラのノモイ(旋律型)
         リラの弦を7本に増やす
□タレタス 音楽で少年たちを訓練

前586年 サカダス(前6世紀)標題音楽の初め

デルファイのピュティア祭 デルファイにまつわるアポロンと竜との戦い
アウロスの曲「前触れ」「最初の攻撃」「戦い」「勝利の凱旋」「竜の死」

独唱(前6世紀後半〜前5世紀前半)
女流詩人サッフォー、アルカイオス、アナクレオン
ギリシアの踊り 大勢が2つの集団に分かれて踊る円形舞踊
合唱隊の歌 シモニデス、ピンダロス、バッキュリデス
・ストロフェ(1編の歌詞)と
・アンティストロフェ(これに呼応する別の1編の歌詞)
・エポーイデ(さらに別)


◆劇音楽の発達

文芸の中心がアテネに(前5世紀)悲劇や喜劇が開花
演劇と音楽が一体となった総合芸術 コンクールの形で競演

悲劇(前534年)ディオニュシア祭 独裁者ペイシストラス テスピス勝利

ギリシア悲劇
合唱隊の歌の流れをくんで詩の形態を保ち
日常会話のリズムに近いイアムボス(短長脚)の旋律

□プロロゴス(序章)
□コロス(合唱隊が登場して入場の歌「パロドス」)を歌い
□エペイソディオン(会話の部分)
□スタシモン(合唱隊の歌と踊りの部分が交互に何度かくり返され)
□エクソドス(終章・最後の場面)

俳優の人数は3人

仮面劇 体型がわからない衣装をゆったりとまとった

合唱隊の人数 12〜15人
悲劇の三大詩人 アイスキュロス、ソフォクレス、エウリピデス 
抒情詩の合唱隊は円形 悲劇では長方形(5人ずつ3列など)

悲劇の競演が行われた場所 山の斜面を利用した野外劇用(前5世紀以降)
アクロポリス東南麓のディオニュソス神の神域に設けられたディオニュソス劇場

オルケストラ
アクロポリスの丘の斜面を利用したテアトロン(観覧席)円形の舞踊場
下半分 俳優が演技
テアトロンと反対側でオルケストラと接する所 プロスケニオン(舞台)
その背後のパラスケニオン(翼室)を伴ったスケネと呼ばれる建物
俳優が着替えをする楽屋 神殿や宮殿に見立てて用いることも

ヘレニズム期
音楽性が失われ 思想的・理論的考察のほうがさかんに
哲学者や音楽理論家が後世に残るいくつかの著作


◆ピュタゴラス派とプラトン

哲学者や音楽理論家の系譜

ピュタゴラス(6世紀)
オルフェウス教の魂の輪廻の思想
南イタリアのクロトン周辺で宗教的秘密結社を組織
万物の根源として数を立てた
オクターヴ、5度、4度の3つの協和音を作り出す弦の長さの比
2対1、3対2、4対3 単純な数の比

ヒッパソス(前5世紀前半)
フィロラオス(前5世紀前半)
アルキュタス(前4世紀前半)

数はあらゆる事物の内奥に存在 実在する個々のものを成り立たせている諸原理
宇宙全体の構造原理

天体のハルモニア
数比に基づいて生み出される音程関係だけが音楽なのではなく
協和音の数比を自然や宇宙の形成原理にもあてはめようとする見方
非凡な耳には響きとして聴こえないものの
宇宙の秩序や調和を一種の音楽とみなす天体の音楽

プラトン『ティマイオス』

初期ピュタゴラス派 <エートス論>
人間の魂の調和も一種の音楽的状態とみなされ
宇宙の似像である音楽のもつ数的関係を通して
天体のハルモニアを魂の中に同化することで魂を浄化できる

アテネの町を中心に優れた思想家が輩出(前4世紀)

プラトン『国家』第10巻 『ティマイオス』
ピュタゴラス派の思想から宇宙論的視点を受け継ぐ
宇宙の構造、天体の運行を基礎づけるもの
身体と魂の調和の問題

プラトン『国家』第3巻
「正しい人間」
物事を正しく判断し、その状況に応じてしかるべく行動をとれる人間
○体育・・・身体の訓練のため
○音楽・・・魂・精神の訓練のため

国家の番人にふさわしい音階の種類
悲しみの思いに沈むもの(ミクソリュディア、シュントノリュディア)や
酩酊感を催し、柔らかく怠惰な表情をもつもの(イオニア、リュディア)を避け
勇気と節制の美徳を鼓舞すると考えられるもの(ドリス、フリュギア)を推奨
楽器 多数の弦をもつもの・多様な音階を出すもの(トリゴノン、ぺクティス、アウロス)を退け
単純なもの(リラ、キタラ、シュリンクス)

芸術としての音楽の重要性は考慮されていない

ダモン(前5世紀)エートス論(性格論)
音楽と人間の魂との結びつきを教育や社会の問題に


◆アリストテレスとアリストクセノス

アリストテレスの音楽論『政治学』第8巻

<音楽の本質>
・遊戯や休息としてのみ役立つもの
・徳を形成するための重要な教育手段となるもの
・高貴な楽しみや知的教養として貢献するもの

作業にかかわった経験なくしては正しく物事を判断できないから
音楽を演奏するとき ある程度の初歩的な歌唱や楽器の知識を得ることが必要

『エートス論』
・ドリス音階
 もっとも落ち着きがあってもっとも男性的な性格で、両極端の中庸となる性格をもっているとして大いに賞賛
・フリュギア音階
 非常に興奮させやすく、感情的で、楽器でいうとアウロスがこの性格を有し、バッカス的熱狂を表現する
 (プラトンとの意見の相違)

弟子 アリストクセノス(前4世紀後半)
 本来ピュタゴラス派の教説を学び数の思弁に影響を受ける
 ↓やがてこれを否定
 感覚を重視して声や楽器の示す感覚的に知覚可能な範囲内に基づいて議論を押し進め、それを超えた抽象的な議論を否定
 旋律に注目『ハルモニア基礎論』音楽と数比的扱いを重視するピュタゴラス派とは大きく対立する見解
 [例] 4度 ピュタゴラス派「(4対3)=(9対8)=(9対8)×(256対243)」
       アリストクセノス 全音を基準「全音の21/2=全音+全音+1/2全音」

ヘレニズム末期〜古代後期
独創的な音楽思想は見当たらない
ピュタゴラス、プラトンの数的・宇宙論的思想、アリストテレス、アリストクセノスの経験的・感覚的思想

※トリゴノン:三角形の形状をしたハープ。弦が多いが正確な弦の数は不明。女性奏者。プレクトラムを用いずに両手で掻き鳴らされた。
※シュリンクス:長さと声高の異なる数本の管をいかだ状に並べたもの。ギリシア神話では牧羊神パンの持ち物。パンパイプ。


◆ギリシアの音組織

下行形
テトラコルド(音列)
 完全4度。両脇が固定し中間音が変化する4つの音。中間音の種類によって全音階的、半音階的、四分音階的
テトラコルドを積み重ね音列を拡大 
 接合型 上のテトラコルドの下端の音を下のテトラコルドの上端の音として重ね合わせる
 分離型 上のテトラコルドと下のテトラコルドの間に全音の隔たりを置いて並べる
 2つの方法を組み合わせると完全音組織ができる
 ギリシアの音階 完全音組織から各1オクターヴを切り取った形で説明され、各民族の名を取って7つに区別される
 オクターヴの音階→ オクターヴ種・ハルモニア


◆ギリシアの楽譜

現存するものは40曲 断片

<種類> 後世の書物の中で記載されたもの・石に刻まれたもの・パピルスに書かれたもの
デルフォイ『アポロン賛歌』(前2世紀、石刻)
セイキロス『スコリオン』(前2〜前1世紀、石刻)
メソメデス『ムーサ賛歌』『ヘリオス賛歌』『ネメシス賛歌』(後2世紀、後世の書)

<記譜法> タブラチュア譜
器楽記譜法 古いアルファベット
声楽記譜法 古典的なギリシア語のアルファベット
 セイキロス『スコリオン』墓石に刻まれている酒飲み歌
 (Cはイ音、Zは1点ホ音、Kは1点嬰ハ音、Iは1点ニ音。リズムの表示付。)
 
理想的モデルとして影響を及ぼした
フィレンツェのカメラータ バロック・オペラの誕生
ヴォーグナーの楽劇の構想

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