イカロスの翼 - Icurus -

ダイダロスはイカロスの父で、細工の名人であった。ダイダロスがミノス王のためにラビュリンス(迷宮)を造った。

ダイダロスは後にミノス王の怒りを買い、息子のイカロスと共に、クレタ島の塔に閉じ込められてしまった。

ダイダロスはその塔を抜け出すために、鳥の羽を集めて、大きな翼を造った。大きい羽は糸でとめ、小さい羽は蝋(ろう)でとめた。

翼が完成した。2人は翼を背中につけた。

父ダイダロスは、息子のイカロスに言う。

「イカロスよ、空の中くらいの高さを飛ぶのだよ。あまり低く飛ぶと霧が翼の邪魔をするし、あまり高く飛ぶと、太陽の熱で溶けてしまうから。」
2人は城壁から天に向かい飛び立った。
農作業中の人々や羊飼いたちが2人の姿を見て、神々が空を飛んでいるのだと思った。 もうすぐ海岸という所でイカロスは飛ぶことに夢中になり天空高くまで舞い上がってしまいました。父の忠告を忘れ、高く、高く飛んでしまった。

太陽に近づくと、その熱で羽をとめた蝋(ろう)が溶け、糸は緩み、不実な翼は、バラバラに砕けてしまった。イカロスは羽を失い、手足を曲げ、髪を振り乱しながら大空の中を青海原へとまっさかさまに落ち死んでしまった。

以後、その海はイカロスにちなんでイーカリア海と名付けられたという。

















ベレロポンと天馬ペガソス - Bellerophon&Pegasus -

ベレロポンは若いコリントス人である。

一説によるとベレロポンは、誤って兄弟を殺してしまった。それでコリントスから追放された。アルゴスへ行き、王プロイトスに罪を清めてもらった。

しかし、王妃ステネボイアが、ベレロポンに恋をし、言い寄った。しかし、ベレロポンは拒絶した。王妃は、拒絶されたことを根に持ち、王プロイトスに、彼女が犯されそうになったと、嘘をついた。

王プロイトスは、客人であるベレロポンを、直接殺すことは気が進まなかった。そこで、ベレロポンに、王の手紙を託し、リュキア国に行かせた。 リュキア王に迎えられたベレロポンは、頼まれた手紙をリュキアの王に渡した。

そこには、この手紙を持ってきた若者を殺すように、と書かれていた。

ちょうど、そのころ、リュキアでは、キマイラという怪獣が国中を荒らしまわっていた。 そこで、リュキアの王は、ベレロポンに、キマイラを退治するよう命じた。

キマイラという怪獣は、半身が牡羊、半身は竜。皮の翼を持ち、火炎を吐いた。

ベレロポンは術策の女王アテナに祈った。 アテナはベレロポンの謙虚な態度を気に入り、助けることにした。

天馬ペガサスを捕らえるように、と教えたのである。

ペレロポンが目を覚ますと、ベッドの上に金の手綱があった。ベレロポンは喜んで、天馬ペガサスを探しに出かけた。

ヘリコンの山に、黄金の翼と真鍮のひづめ、輝く金のたてがみの、美しい馬を見つけた。ベレロポンを見ると、翼を広げ、飛び去ろうとした。

ベレロポンはアテナの手綱を、天馬の頭上に投げると、馬はおとなしくなった。

ベレロポンは天馬ペガソスに乗り、怪獣キマイラを退治しに行った。アテナを見方につけているベレロポンは、入念に戦いの計画を立てた。奇襲攻撃により、キマイラを退治したのである。

その後、王はベレロポンを気に入り、娘ピロノエと結婚させた。ベレロポンは多くの戦いに、天馬ペガソスで乗り付け、いつも勝利を得た。

ベレロポンの名声は上がるばかりである。それと同時に、謙虚さを無くしていったベレロポンは、うぬぼれて、ペガソスに乗って、オリュンポスへ行き、神々にまで、自分の手柄を自慢しようとした。

しかし、ゼウスは、一匹の虻を送った。虻はペガソスを刺し、ベレロポンは振り落とされた。

地上に落ちたベレロポンは、命は取り留めたが、足を悪くし、以後、生涯、足を引きずりながら乞食をして歩かねばならなくなった。

一方、ペガソスはミューズたちに気に入られ、ゼウスが、彼女たちにペガソスを譲った。時折、彼女らは、若い芸術家に、このペガソスを貸し与えることがあった。しかし、乗り手が、おごり高ぶるとすぐに、振り落すのであった。

















ペルセウスとメドゥーサ - Perseus and Medusa/Gorgons -

ペルセウスは、セリポス島のポリュデクテス王に育てられた。しかし、成人すると、ペルセウスを殺そうと企んだ。 ペルセウスに、その国を荒らしていた怪物メドゥーサを退治しにやらせたのである。

メドゥーサは、もとは美しい乙女であった。しかし、アテナとその美しさを争ったため、髪はひしめく蛇に変えられ、美も奪われ、怪物にされてしまったのである。

メドゥーサを一目見たものは、皆、石になってしまうのである。

ペルセウスはそんな恐ろしいメドゥーサを退治するために、思案した。

幸い、ペルセウスはアテナとヘルメスに可愛がられていた。アテナは楯を貸してくれた。そして、ペルセウスに警告した。メドゥーサを見るとき、楯に写る姿だけを見るようにと。ヘルメスは翼のついた靴を貸してくれた。そしてもう一つ貸してくれたのは、金の新月刀であった。これは、世界でただ一つ、メドゥーサの首を切ることができる鋭利な刀である。ヘルメスは、ペルセウスに、あと二つのものが必要だ、と告げた。その二つのものは、かつて、西方の国のニンフに、ヘルメスが与えた贈り物である。

さらに、ニンフたちの住家は、グライアイと呼ばれる三人の老女だけが知っているので、彼女らから、ニンフの住家を聞かなくてはならない。

ペルセウスは翼の靴を履き、老女グライアイのところまで、飛んでいった。彼女たちは、三人なのに、一つの目と一つの歯しか持たず、それらを、交代で使っていた。

ペルセウスは、グライアイたちから、ニンフたちは黄昏の娘たちの園(ヘスペリデス)に住んでいることを聞き出した。そこにはヘラの黄金のりんごの木があり、アトラスがそのへりを持ち上げている。

もう何世紀も新しい客に会っていなかったニンフたちは、ペルセウスを喜んで迎え入れた。そして、ヘルメスが残していった贈り物を与えた。

ひとつは、隠れ兜といい、かぶると人間の周りを闇が包み、見えなくしてしまうものである。もう一つはキビシスという袋である。この魔法の袋だけが、メドゥーサの毒に耐えられるのである。

ペルセウスは、メドゥーサに睨みつけられると石になってしまうので、メドゥーサが眠っている間に、近づき、首を落とした。

そのとき、飛び散るメドゥーサの血から、生まれ出たのが、天馬ペガソスである。

















キューピッドの恋 - Eros and Psyche -

プシュケは3人姉妹の末娘。あまりの美しさにアフロディテが嫉妬心を燃やす。
アフロディテは息子エロスを送り、ある醜い豚飼いに恋をするよういいつけた。
しかしエロスは誤って、自分の胸を恋の矢で傷つけてしまった。プシュケに恋したエロスは、彼女を自分の住処に運び、結婚した。

だがクピドの秘密を見てしまったプシュケ。

エロスが消え、絶望したプシュケはクピドを捜しまわった。ヘラやデメテルの助けを求めたが、彼女たちはヴィーナスの敵を助けるわけにはいかない。

そこで、プシュケは、ヴィーナスの宮殿へ行った。ヴィーナスは、プシュケを奴隷にして、仕事を言いつけた。その仕事の1つは、女神ペルセポネから、「美」の入った小箱をもらってくるように、というものであった。

しかし、ペルセポネは冥界の女王である。プシュケは死ななければ、冥界へは行けない。プシュケは、高い塔へ上り、そこから飛び降りて死のうとした。

すると、その塔が、プシュケに、三途の川サテュロスの渡し守・カロンを説き伏せて、冥界へ行く方法を教えてくれた。そして、プシュケに、大切な忠告をした。「美」の箱は、決して開けて見てはいけない。女神の美の秘宝をのぞくことはなりません。

















眠りの王国 - ケユクスとハルキュオネの物語 -

ケユクスはテッサリアの王で、平和にこの国を治めていた。暁の明星ヘスペロスの息子でもあり、明星のごとく美しい輝きを持っていた。妻はハルキュオネで、風の神アイオロスの娘であった。

あるときからケユクスの王国では、恐ろしい異変が続いた。ケユクスは、神々が自分に敵意をもっているのではないかと考え、アポロンの神託を伺おうとした。それによると、ロニアのカルロスの町へ、船旅をしなくてはいけないとでた。

ケユクスの危険な船旅に不吉な予感を感じたハルキュオネは、その出発を止めた。しかし、ケユクスは出発した。

案の定、ケユクスの船は難破して、ケユクスは死んでしまった。しかし、夫の死を知らない妻ハルキュオネは、毎日、夫の無事を祈りつづけた。祈られる神のヘラは、もはや忍び難くなり、虹の神イリスに言った。
「ヒュプノスの眠りの王国へ行って、ハルキュオネに夫ケユクスの幻影を送って、夫の死を知らせるよう伝えなさい」

虹の神イリスは、眠りの王国がある洞窟へ行った。そこは沈黙の世界で、岩の底から流れるレテ川(忘れ川)の響きは、あらゆる物を眠りにさそう。洞窟の入り口にはけしの花が植えられ、その液汁から、夜の女神が睡眠を集めて、地上が暗くなったときにまく。

その神ヒュプノスは、人の心を静め、悩みを慰める神である。レテ川は忘却の川で、その水を飲むと生きていたときのことをすべて忘れる。そうすることによって、恨みも反抗もなく、死を受け入れることができる。最後の親切な川である。

虹の神イリスは、眠りの神ヒュプノスにヘラからの伝言を伝えた。

眠りの神ヒュプノスの息子に、有翼の夢の神モルフェウスがいた。人の姿を真似ることにかけては1番の達人である。ヒュプノスは、モルフェウスに、その伝言を実行するよう言って、眠りについた。(麻薬のモルヒネの由来は、このモルフェウスによる)

モルフェウスは、死んだケユクスに姿を変えた。ハルキュオネの夢に現れ、ケユクスの声やしぐさを真似て、
「私は死んでしまったけれど嘆かないでおくれ」
と言った。
ハルキュオネは、眠りから覚めて、夫の死を知り、嘆き悲しんだ。ハルキュオネは海へ行ってみた。すると夫の亡骸があった。ハルキュオネは防波堤から飛び降りた。すると翼が生えてきて、悲しい鳥になった。神々の憐れみによって、死んだケユクスもまた鳥になり、2人は再び連れ添えるようになった。

鳥になったハルキュオネが、海の浮巣で雛を孵すと、水夫たちは無事な航海ができると伝えられる。