自分は徐に足を止めた。
「おい、ナシヒト?」サエズの声もお構いなしだった。
’ディキショネール’、辞書だ。
あからさまに本棚に目を光らせ、徐に英・仏間、仏・露の辞書を手に取る。
「ああ成る程ね」サエズとグリークはその様を見て納得していた、カステルで自分が世界に感銘を受けたのを解かっていたからだろう。
ざっと見回して英ー仏両方、仏ー露両方の辞書を徐に手に取り、レジへ向かう。
他の皆も一通り見終わり、中のカフェで一息入れる。
「外国ってのは不思議だな、働いてるのにそれでもチップを取るなんて。」
「日本じゃないのかい?」
「ああ、働く事=給料だからね。」
こんな感じで皆が集まると文化の違いの話が始まる。
ブラブラと見て周ってるとアウトドアショップがあったので入ってみた。
品揃えは日本も似たような物だが、国柄かいわゆる”ブランド物”が当たり前に並んでいる。
在り来たりの品には興味は無かったのでGPSを購入、店員は壊れたら交換も出来る等のサービスポイントを説明してくれたが、帰国が
メインな今後にはあまり関係がなさそうだ。
最初は飯でも食いに行こうなんて言っていたが、いつの間にか手にビールを持って部屋に戻っていた。
気が付けば皆バラバラになっており、自分はサディルと2人で飲み明かしていた。
彼は20歳だが、チェコでは薬やらスリやらの常習で、いわばストリートギャングだった、ある日嫌気がさして国を出たのだが最初に
行った国はなんとイスラエルだったと言う。
「水門の仕事が給料がよかったけど、オレは馬鹿だからなれなかったんだ。だから此処へ来たんだ。」
「俺も似たようなモンだよ、変な事を考えずに軍隊(自衛隊)で大人しくしてりゃよかんたんだ。」
お互い苦い過去を思い出し、語り合っては酒を飲み忘れていく、ケースで買っていたビールは何時しか空になっていた。
翌日早朝、自分は皆より先にホテルを出た。
サディルは完全にくたばっていた、他の皆に別れを告げ、駅へ向かう。
切符を買おうとしたがマシンが壊れたらしく、引換券を貰ってホームをうろついていた。
係員に場所を聞き、車掌から直接切符を買ってTGVに乗り込む。
朝のせいか車内はガラガラなのに、いかにもスリっぽい輩が笑顔で声をかけてきて隣に座り込む。
手を出してきたらブン殴ってやろうと密かに楽しみにしていたのだが、3時間半、彼は何もしてこなかった、面白くない。
昼には無事パリ・リオン駅に着き、早速ホテルの予約を取る。
連絡先は以前泊まったHotel de la PAIX、安くしあげたかったが先ずはその日の屋根からだ。
電話に出たのはゾッコではなかったが、仏・英語で話し、即日泊まれる事になった。
もはや使い慣れたメトロでエコール・ミリテールへ、約半年振りのエッフェル塔下はかすかに秋の色をかもし出していた。
ホテルでは以前と同じ部屋になった、くそ重いバックを5階まで引っ張り上げ、初めて来た時と同じく窓を開けてタバコをふかす。
とりあえずは航空券を探しに街へ出た、まずは情報収集も兼ねて日本人街へ。
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