「ビューン!!」

冗談のようだが本当の表現である。


降下2分前。
左右に付いている降下扉の開放、エンジンの轟音と共に外壁に押さえられていた空気が一気に機内に流れ込む。
C-130のプロペラからの風圧は凄い、この後更に身を持って体験する事となるが。
身動ぎはしなかったものの、その場に踏ん張っていた身体はしっかりとその風を感じとった。
副のJM(降下長)が身を乗り出して扉付近を確認し、しゃがんだ姿勢で 「風が寒いねえ。」 と笑いながら身振りで示す。
「全くです。」 自分も表情でそれに返す。
今日は3回目、自分は左扉の先頭降下である。
不思議と緊張は無かった、むしろ信じられない位に楽しく、嬉しかった。
「この位置まで前へ!」
左手は自動索環を、右手は機壁にそわし、右足を前に摺足で扉に近づく。
身体にあたる風が強くなる。
「位置につけ!」
「イチ、二、サン!」
右足、左足、右足と扉に向かって踏み込む、目線は訓練通り直正面、清んだ空の地平線を捕らえている。
ふと下を見下ろす、タラップから、綺麗に化粧皮から先が出ている空挺靴を通して、通過中の住宅地が見える。
副JMが何か言った、多分風に気を付けろか何かだと思うが、今となっては流石に覚えていない。
C-1やC-130の場合、ヘリみたいに降下合図の交信が聞こえる事は無い。
偶然遣り取りが聞こえたとしても、殆どエンジンの轟音で消されてしまう。
便りになるのは眼下に見える地表(建物)の変化とすぐ横にある赤と青のランプ、そして背後に感じるJM、LM(機内搭乗員) の行動だけだ。
ランプはまだ赤、だがじきに青に変わる。
じっと時を待つ、短いが長い。
イヤな間だ。
突如背後の感触が変わる、同時に一瞬で横のランプが青に変わる。
「ジリリリリーン!!!」
けたたましくベルが鳴る、新兵の心構えなんて関係無しだ。
「用意、降下!」
副JMは慣れたもの、周囲だけでなく地表も確認して自分の尻を叩く。
経験豊富とはいえ、いつもながらに大したものだ。
関心してる暇など無いが、この瞬間だけは良く覚えている。
「初降下!」
出出しの一声で機外に飛び出す、とは言っても自分の意思は飛び出した一瞬のみ。
後は猛烈な空圧で自動的に後方へと押し流されて行く。
更にはC-1のジェットエンジンの一点空出力と違い、C-130のプロペラ特有のバラバラな空圧が自分を襲う。
凄い衝撃、まだC-1の方が”まろやか”だ。
「2降下、3降下、4降下」
飛び出しが良かったのか、開傘までの時間は太陽を見ながら落ちて行く・・・と言うより身体が上を向いて流されて行く。
因みに姿勢が悪いと真下を向いてしまい、地表に近づくスリリングな一時を過ごす事が出来る。
「点検!」
殆ど怒鳴り声で叫び、重力と縛帯の圧迫に遮られながらも顔と両腕を上にもって行く。
捻れも無い、我が身を守る落下傘は歌の如く綺麗に”花”となって開いている。
「右よーし、左よーし!」
周囲を見渡す、後方に同期が続いている以外は青空しか見えない。
だがスカイダイビングと違い、「降下」はすぐに地面が迫ってくる。
ましてや人生で3回目、まだ周りの景色なんぞ楽しんでいる暇は無い。
気が付くとすでに地上50mばかししか無い、急いで着地の準備をする。
幸い藪で無く中央の芝生に入った、下から助教がメガホンで怒鳴る。
「しっかり下を見ろー、とらわれて姿勢を崩すなよー!」
声は強いが、遠方でも自分を見ている顔は微妙に笑っているのが確認出来る。
そう、向こうも判っていた、 ”コイツは大丈夫だ”。
期待は裏切れない、流れている身体の向きを見る、左前方。
何時でも後方着地に変わってもいいように身構える、もう10m足らずだ。
地上5m、 ”着地用意” 、 心の中で叫ぶ、いいぞ。
「着地!」
思わず叫ぶ、綺麗に足の裏、左側の脛、腿、胴体、腕へと衝撃が分散されてゆく。
地球を一回転して眺めながら後ろ周りの要領で立ち上がる。
水平の目線になって思わず顔がニヤける、 「パーフェクト」 。

見えるのは、正常な角度の習志野演習場。
クソムカつくけどいい兄貴分の助教達。

3回目の降下は終了した。


(大体こんな感じ・・・って見える?。)


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