2〜4
昼間、ボケっとしているとルージュの一人がやって来た。
日焼けをし、ムスっとした顔つきはまるで少林寺映画に出てくるようだ。
ここでようやく会った日本人、サトシ。
「はじめまして。」
「・・・何しに来たの?」
握手をしながら、彼はムスっと言ってきた。
「・・・ここつまんないよ、外人馬鹿ばっかだし。」
表情通り、日々の生活にかなり飽き飽きしているようだ。
既に戦闘服を着ており、あと3日足らずでカステルノダリに向かうんだと。
まだ23歳、自衛隊を3年半で辞め、親には内緒で来たものの、何でもせかされたりすぐにパニックを起こす外国人にあきれ返っており、とにかく
とっとと辞めたがっていた。
「じゃあ何で入隊したの?」
「最後の面接の時、みんな”ウィ(Oui)、ウィ”って言ってくもんだから思わず”ウィ”って言っちゃったんだ。」
呆れ返る理由だが、自分もこの後、同じ体験をする事になる。
1日1回は顔を会わしたが、出てくるセリフは日々の愚痴のみ、2人して半ば大声で叫んだものである。
「帰りて〜!」「マルセイユで冷たいワイン飲みて〜!!!」
・・・まったくだ。
来てから3日4日経つと、雑用の他に徐々にテスト、面接、検査が入ってくる。
日にちは決まって(知らされて)おらず、朝の作業分けの際に同じように呼ばれ、グループで受ける。
テストは隊舎の1階、机と椅子の並んだ教室みたいな部屋で行われる。
CCHはフランス語と英語で説明してくれたので、自分でも何をどうすればいいのかは検討がついた。
用紙を見てみると・・・手書きだが日本語で問題が訳されている。
先人の日本人が用意してきたのだろう、訳がなかった昔の日本人は大変だったんだろうなあなどと思いながら適当に鉛筆を滑らせる。
内容はそれ程難しくない、2、3個かみ合っている歯車の左側はどの方向に動くのか、向きの違った同じ絵を探したり、簡単な足し算、引き算・・・
いわゆるIQテスト、なんだか運転免許の適正試験をやってる気になってくる。
一通り終わり、時間が残ると木のイラストを描かされた、どうせ下手なので適当に枝やら葉っぱをかぶせていたら、何だかんだでそれらしく
なっていた。
この日は教室ではなく、入り口正面にある待機室みたいな部屋に通された。
壁には宣誓文が仏、英、ロ、伊、西・・・と7ヶ国語でそれぞれ書かれており、軍で出版された雑誌なども置かれている。
外人部隊の機関紙”ケピ ブラン”を眺めていると呼ばれた、入り口側の部屋へ。
そこには東洋人のSGTがいた、背は自分より少し低く、身体は引き締まっており、見た目にも無駄が感じられない。
先に入った彼に呼ばれた。
「どうぞ入って下さい。」
・・・紛れもない日本語、日本人の軍曹である。
長く勤務している日本人の話は聞いてたが、実際に会うのはこれが初めてだ。
言われるがままに入り、ADJ(曹長)との面接が始まった。
出身、家族、、宗教、経歴、志願動機・・・大体が予想していた事を聞かれ、SGTを通じてADJに伝えられていく。
だがいずれも自分にとっては思い出したくない過去、意識せずとも次第に目は涙ぐんでいた。
面接が終わり、廊下で待っている間、恐る恐る声を掛けてみた。
「どの位こちらに?」
「12年になります。」
長い、既にフランス国籍を取っている(国籍がないと軍曹にはなれない)。
「来る前にどこか行きましたか?」
今度はこちらが聞かれた。
「パリの後ノルマンディーへ、最後にカーンへ行ってここへ来ました。」
「軍事博物館は見ました?」
「月曜なんで閉まっていました。」
「ハハ、それは残念。」
静かだが和やか?な会話の後、自分は裏庭へ戻された。
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