ハデスと妻ペルセポネ - Haddes & -
冥界の王ハデスは花嫁探しに苦労していた。
そんなとき大地の女王デメテルの娘ペルセポネの噂を聞きつけ、強奪を実行に移す・・・
冥府の王ハデスは、長い事王妃を探していた。
ハデスは地下の世界では絶対権力者であったが、その冷たく恐ろしい形相などから、花嫁探しはなかなか思うようにいかなかった。
同じ頃、大地の女王デメテルは、すばぬけた美貌のひとり娘ペルセポネと、 こっそりシチリア島で暮らしていた。純真無垢のかわいい娘に悪い虫でもついらたまらない。 デメテルはペルセポネを大切に育てあげ、ゆくゆくは天界の男神たちの中から、とびきりの誰かと結ばれ、幸せになってほしい・・・。
これほど秘密に育てていたにもかかわらず、やはり噂は広まるもので、 ハデスはペルセポネのことを聞きつける。性格もおとなしく、従順で、冥界の王妃にはぴったりだ。
さっそく弟のゼウスに相談すると、良縁に恵まれない兄を心配していたゼウスは、諸手をあげてそれに賛成する。
さてそうなると、残る問題は、どうやって彼女をものにするか、だ。 デメテルに相談したところで、拒絶されるのは火をみるより明らかだからだ。
あれこれ考えた末、彼は、これは力ずくにでもハデスの館に連れてくるより他ない、と決意する。
ある日、まだあどけなさを残したペルセポネは、金色の太陽の光に包まれたヘンナの野原で花を摘んで遊んでいた。
ところが突然大地がぱっくりと2つに裂け、そこから黒い馬に乗り全身黒装束のハデスが現れた。
彼は、あまりの恐ろしさにその場に凍り付いて動けなくなったペルセポネを小脇に抱きかかえると、 さっと馬を向き返らせて地下に消え去った。 大地の割れ目もたちまち閉じて、平穏な静寂が戻り、後にはペルセポネが摘んでいた花が散らばっているだけだった。
娘が誘拐された事を知ったデメテルは、もう何ごとも手につかなくなり、髪を振り乱し、 なりふりかまわず、ひたすら娘を探して歩き回った。
実りの神に放っておかれた大地は、かさかさに乾燥し、荒れ果て、何の種を蒔いても実らなくなってしまった。
さすがのゼウスもこの状態には困り果て、とうとうハデスにペルセポネを親元に返すよう命じた。
しかし、やっと見つけた新妻を手放したくないハデスは策略をめぐらし、 毎日泣き暮らし何も口にしようとしなかったペルセポネを
「これを食べれば母のもとに帰れる」
と騙し、ザクロの実を4つ食べさせることに成功した。
「ハデスの国の食べ物を口にしたものは地上に帰る事はできない」
ハデスはペルセポネをデメテルに返せ、とひつこく催促するゼウスに言い放った。
いくらゼウスとて、この冥界の規則を無視する訳にはいかない。苦肉の策として、 1年のうちザクロの実の数と同じ4ヶ月はハデスと一緒に暮らし、残りはデメテルのもとに帰るようペルセポネにいいつけた。
今でも1年のうち4ヶ月は、ペルセポネをハデスにとられて泣き暮らすデメテルが、ひたすら嘆き暮らしている。
そのため、この間、つまり冬になると、大地には何も実らなくなり、 冷たくかなしい空気に包まれてしまう、といわれている。
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