Greece Rome Myth - ギリシア・ローマ神話 - ▲ 
人間の始まりとパンドラの箱

モノ作りが好きだった巨人族の神プロメテウスは、人間を作り上げ、 さらにゼウスの命令に背いてオリュンパス山の火を盗み出し、人間に分け与えた。それを知ったゼウスは激怒し、人間を堕落させるために、ある "プレゼント" をするのだった。

ティタン族のクロノスが天界を治めていた時代、クロノスは人間に黄金の世代を与えた。この世のすべては楽園だった。働く必要も、くよくよ悩んだりする必要もなく、ストレスもなかったので、誰もが仲良く、このころに誕生した最初の人間達の寿命は現在の人間達よりもずっと長くて、不死に近い程だった。

「金の種族」と呼ばれたこの時代の人間達は、大地が無限に与えてくれる恵みを享受しながら、それはそれは平和に楽しく過ごした。 長い人生を楽しみ眠るように安らかに息を引き取ると、善なる魂となって、次に生まれてくる人間達を守護するようになっていた。

「金の種族」の後に生まれた「銀の種族」の人間達は、それほど素晴らしい暮らしを送れなかった。1年が四季に分けられたのはこの時代で、寒さや暑さをしのぐ知恵もこの頃考え出された。100年間も続く子供時代が過ぎると、その後、これといったことも出来ずにあれよあれよという間に死んでいった。また、苦しい事がないので、だんだんと傲慢になっていき、神々を敬わないで勝手ばかりしていた。
こんな人間の様子を見るに見かねたゼウスは、呆れ怒って洪水で彼等を消滅させてしまった。 銀の種族の人間達はこうして地上から消えたが、地下に行って幸福な魂、ダイモン(精霊) となったので、次世代の人間からも敬われた。

その後の真鍮の時代に誕生した人間達は「青銅の種族」と呼ばれた。 トネリコから生まれて、頑固で冷徹な性格をもち、弱肉強食だったが、肉体は素晴らしく発達していた。しかし、肉体美に溺れ、誰が一番強いかばかりを争っていたため、最後には武器を作り殺し合い、相討ちになって皆死んでしまい、ハデスの館に永住することになった。

青銅の種族が滅びてすぐに出現したのは、「鉄の種族」だが、この頃にはもうゼウスの時代になっていた。この種族が私達現在の人間の祖先といわれている。

最初の人間を作ったのは、人間創造以前からこの地上に住んでいたティタン族の子孫のプロメテウス。もの作りが好きだったプロメテウスは、人間製造と、その人間や他の動物達に、生存に必要な能力をあたえる役目をゼウスから委任された。プロメテウスは弟のエピメテウスと相談して、大地の土を取って、それを水で練り固めて、神々と同じ形に人間を造りあげ、直立の姿勢をあたえたので、人は空を仰ぎ、星を眺めることができた。

この2人は、人間を作る前にすでに色々な生き物を作っていて、 獣には毛皮、鳥には翼、貝には貝殻と身を守るものを与えたのだが、 最後の人間には何も与えるものがなくなってしまった。
丸裸の人間達が地上で寒さに凍えているのを見たプロメテウスは、可哀相に思い、女神アテナの力を借りて、天に昇り太陽の二輪車の火を自分のたいまつに移し取り、地上に降りて人間に与え、その使い方を教えた。

さて、あれほど禁じておいたはずの火を人間が使っているのを知ったゼウスは、このままでは人間の力が神に追いついてしまう、と大いに怒った。 考えに考えてゼウスは、ある名案を思いついき、まず息子で鍛冶の神ヘファイトスに、人間の女を作らせた。ヘファイトスは、女を完成させると、黄金の冠を被せてやった。

この女は、大変美しく魅力的だったが、さらに磨きをかけるため、アテネは白く艶やかな衣を与え、アフロディテは微笑みと男を誘惑する力を与えた。
パンドラと名付けられたこの女は、こうしてヘルメスに連れられ、エピメテウスのもとにいき、 晴れて夫婦となった。そうして2人は仲睦まじく幸福に暮らし、娘ピュラ−をもうけた。 娘ピュラ−は、デウカリオンと結婚し、地上で人間と共に暮らした。

が、あるとき、パンドラは天から降りてくる時にゼウスが贈り物としてくれた箱の中身がどうしても気になって仕方なくなってしまい、エピメテウスの留守中、とうとうこっそり箱のふたを開けてしまう。

箱の中から勢いよく飛び出したのは、病気や恨み、妬み、恐怖、悲しみなど、人間に不幸をもたらすありとあらゆる災いの種や悪い感情だった。あまりの恐ろしさにパンドラは凍り付き、やっとの思いで箱の蓋を閉めた時には、箱の中にはもう「希望」しか残っていなかった。

こうして人間は、パンドラが開けた箱から飛び出してきた沢山の苦しみにさらされる運命になってしまったのである。それでも人間が何とか生き延びてきたのは、最後に残った希望がかたわらにあるからであろう。

一方、人間に火を与えたプロメテウスもまた、ゼウスに罰せられることになった。プロメテウスは、ゼウスがヘファイストスに特別に作らせた頑丈な鉄の鎖で山に鎖で張り付けられ、生きたまま毎日ハゲワシに肝臓を食いちぎられることになった。
昼間、焦げ付くような太陽の下、プロメテウスは地獄の苦しみにさらされるのだが、彼は不死身であったため、夜が来ると回復し、朝になるとまた、一日中ハゲワシに攻撃され続ける。

こうして、人間に火を与えてくれたプロメテウスの受難は、長い間続く事になった。

プロメテウスが苦しみ続けている間に、増えていった人間の大半は、パンドラの箱から飛び出していった悪の心を持った者だった。

それでゼウスはすべての人々を滅ぼしてしまおうと考えた。ゼウスは、天から大雨を降らし、ポセイドンは川を氾濫させ、海を荒らしてこの世は大洪水となった。そして、人間達はみな溺れ死んでしまった。

ところが、プロメテウスから洪水があることを教えられ、事前から方舟を用意しておいたデウカリオンとピュラ−の夫婦だけは、9日9晩波間に漂った末、なんとか生き延びることができた。

10日目の朝、やっと水は引き、再びこの世に平和が戻った。

デウカリオンの投げた石から男が、ピュラの投げた石からは女が誕生した。 現在の人類は、この2人の子孫である、といわれている。

そうして神々は人間の前から姿を消していった。

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