人間の宿命の始まり
ホロメスと並び称されるギリシア詩人ヘシオドスによれば、ゼウスの時代が到来する以前、つまりクロノスが支配していた時代には、すべてが幸福に包まれていたという。人間もずっと長生きで、汗水たらして働かなくても、食べ物は豊富にあったし、だれもが正直に生きていたので、法律も必要なかった。
いうなれば、聖書の楽園を彷佛とさせるような黄金時代だった。
しかし、最高神がゼウスとなってからは、すべてが一変する。
まず、ゼウスは知恵の神であるメティスと交わる。だが、ガイアからメティスはゼウスの地位を奪う神を生むと予言されていた為メティスが子を宿すと飲み込んでしまう。これ以後ゼウスは知恵の神にもなる。腹の中でメティスの子は大きくなりやがてゼウスの頭より戦いの女神アテナが誕生する。
ゼウスはティターンの一人掟の女神テミスと交わる。彼女からは奇跡の三柱ホライ達と運命の三柱モイライ達クロート(運命を紡ぐもの) ラキシス(分け与えるもの) アトロポス(不可避のもの) が誕生した。
ゼウスは豊穣の女神デメテル(妹) と交わり女神ペルセポネを生む。ペルセポネはゼウスの策略によりハデスの妻となる。
ゼウスは記憶の女神ムネモスネと交わる。子は詩の女神の九柱の女神ムサイである。
ゼウスは女神レトと交わる。だが、ゼウスの妻ヘラはレトが生む子が後にオリュンポスの神となると知り出産を妨害する。その為レトは分娩の場所が無く海面に漂う岩塊でアポロンとアルテミスを誕生させる。アポロンはこの浮島をギリシャの中心エーゲ海の真ん中に固定しデロス(光り輝く島) という名を与える。
ゼウスとヘラからは青春の女神ヘベ、お産の女神エイレイテュイア、戦神アレスが誕生する。ヘラは後、一人でヘパイストを生む。この神は足が悪かったので、ヘラは他の神々に失敗が知られるのを恐れ天上から投げ捨てた。だが、ヘパイストは水の神に助けられ技術の神となる。ヘパイストはヘラに黄金の椅子を贈り、その椅子に座ったヘラは椅子に呪縛された。どの神々も呪縛を解くことが出来ない為神々はヘパイストを天上へ向かえアフロディアを妻に与える。
ゼウスはマイアと交わる。マイアから誕生したのは窃盗の神、旅人の守護者、冥府への案内人たるヘルメスである。
次にゼウスは人間と交わる。セメレからはディオニュソス(バッカス)が生まれ、アルクメネからはヘラクレスが生まれた。ディオニュソスは生まれたときから神であったが、ヘラクレスは人の子として生を受ける。ヘラクレスの生涯はヘラの悪意ある嫉妬に苦しめられた。数々の冒険を行ったヘラクレスは最後に妻の嫉妬で毒を盛られ、自ら薪の山を築き火の中に飛び込んだ。天に上ったヘラクレスはゼウスの仲介によりヘラと和解し、ヘラの娘、青春の女神ヘベを妻にいただきオリュンポスの神の一員となる。
こうして天空の神々は揃い、ついにガイアとの決戦へと移る。初めに巨人と戦うが、この巨人は神の力では倒すことは出来なかった。何故ならこの巨人達は父たる神より流でた血より生まれたからである。そこでゼウスはヘラクレスを呼び戦わせる。この日の為にゼウスは人の子との間にヘラクレスを誕生させたのである。ゼウスの期待通りヘラクレスは巨人を全滅させた。ガイアは次にタルタロスと交わりテュポンを生む。この怪物は巨大で上半身は人間、下半身は蛇であり肩からは無数の竜が生えていた。
この怪物を見た神々は恐ろしさのあまり姿を動物に変え逃げだした。ただ一人逃げずにいたゼウスは稲妻で応戦したが手足の腱を切られてしまう。ゼウスは捕虜とされ、腱は隠されたがゼウスの息子のヘルメスが腱を盗みゼウスを救出する。ゼウスはテュポンの隙をつき火山の下敷きにした。
* テュポンを見て逃げ出した神々が、エジプトの神々とも言われる。
人間は、夜が死んだモイライ(運命)やカー(死神)、タナトス(死)に支配されるようになり、ピュプノス(眠り)やオイジス(痛み)の影響も免れなくなった。
また、神が作ったパンドラが開けた箱の中からは、病や恨み、悲しみ、恐れなど、様々な悪い感情や災いの種が飛び出して、人間を苦しめる事になる。
ギリシア神話の幕開けは、つまり人間の宿命の始まりでもあった。
ティタン族の神話は、その物語の曖昧さとエピソードの乏しさから、ギリシア人達が移住してくる前にギリシアで信仰されていた土俗の神ではないかと考えられている。
反対に、オリュンパスの神々は、不死である点は別にしても、愛欲のままに行動し次々と諍いを起こしたり、妬んだり、憎しみ合ったりと、私達人間と変わらない。
ギリシア文明が栄え、絢爛たる文化の開花とともに、神話や神様がもっと人間の現実生活を反映したものになっていった。
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