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5日目午後、我々はジャージを返納し、元の私服に着替えた。
いよいよオバーニュへ向かうのである。
なんだかんだで人数は30人以上、全員最後の面接を受ける。
奥の部屋に通された、責任者は中国人のサージェント・シェフ(SCH・先任軍曹)だ。
彼との会話も英語だった。
「君は自分からここに来た、もし君が志願をすると、任期は5年間だ。それでもいいか?」
「はい。」
「OK、ここにサインを。」
写しも含めた8枚ぐらいの書類にサインをする、志願書、診断書、宣誓書・・・全部直筆なので手が疲れる。
終わってから皆でバスに乗り込む、引率は15年以上勤務しているベテランのCCHだ。
「これからオバーニュに向けて出発する、あすこに行ったら暫くは娑婆とおさらばだ。」
身振り手振りで喋るので言いたい事がよく解る、今のうちに”娑婆”を堪能しておけと。
「今のうちにはしゃいで、女を見て”○○”かいとけ(一応伏字)。」
どうして軍隊ってのはどこの国も同じなんだろう。
夜9時、相変わらず昼並みに明るい。
我々を乗せたバスはリヨン駅に到着した、これからSNCF(フランス国鉄)で移動だ。
ケピを被った兵、それにくっついて行く外国人。
現地人なら一目で志願者と解る、だがその様は知らない人間が見たらまるで護送される犯罪者の様である。
恐らく新婚旅行の日本人夫婦がこの風景を見たら、「パリで輸送される犯罪者の中に日本人らしいのがいた」と言いふらすであろう。
修学旅行の学生の様にホームに並び、一列で乗り込んでいく。
一部屋6人の寝台2等室、自分、ダニエル、ゴング、ウォン、ブルガリ、・・・忘れた。
備え付けのミネラルウォーターで祝杯を上げる。
「オバーニュへ!」
第一段階クリア、皆は嬉しそうだ。
だが自分の気は相変わらず乗らないままだ。
なんだかこれで目的を果たした気分になってしまった。
正直、オバーニュで落としてくれないかなと思っていた。
どうせなら早い方がいい、帰国の航空券が生きているうちが。
不安は無い。
何時ものように呆然としながら目を閉じた。
気が付けば南フランスだろう。
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