2〜7


ルージュになってまずやる(やらされる)こと、「Code d'honneur(宣誓の記)」の暗記だ。
どこの国でもあるが、「私はここに、服従し、逆らわない事を誓います」ってヤツだ。
言うまでも無くフランス語の7つの文面を一字一句、間違う事無く暗記する。
が、これなんてまだ序の口だった。

ルージュになって初日、2日目なんてのはまだマシだった、面倒くさいのはせいぜいガードくらい。
2時間3人が一区切りで毎晩交代で就く、せっかくの睡眠時間もこれで削られる。
まあガードといっても警衛ではなく、その時間に起きている事が目的なので深夜で暇を感じたらタバコをふかしていた。


週の半ば、隊舎の角で控えていると体操服姿の2人がやって来た。
ルージュの一人が気をつけを怠ると、いきなり一人がそいつの胸を度付いた。
片方の男が全員を見回し、自己紹介を始める。
体格的には(軍隊では)普通だが、左目の開きが広い。
「自分はSGT.H。諸君の来る中隊の引率だ。」
なにやら喋っている、大体がこれから栄誉有る部隊の一員になるだの、ここはシャバではないだの、そんな話ばかりだった。
同行して来たのはCPL.R、パラシューティスト(空挺隊員)だそうだ。
一通りの話が終わると「ポジション!」、腕立て伏せだ。
自分は小突かれない程度にヘコヘコやっていた。

夜になるとCPL.Rがやって来て「これを覚えろ、基本だ。出来たら向こうの部屋で実践してみろ。」
訳も解らずフランス語の挨拶文句を覚える羽目に、さっぱり解らない。
とりあえず言われた台詞をノートに書き、なんとか文だけでも覚えようとするが、理屈が解らない分に”訳わからん”。
おまけに他の連中なんぞ、「ベレーの代わりだ」とトイレットペーパーをリボン状にしたり、その様を見て表にも十分響く馬鹿声で 笑ったり・・・内心冷や冷やものだった。

適当な時間にSGT.Hがやって来た、皆整列をする、自分の右隣のヤツが不動の姿勢を疎かにしCPL.Rにどつかれる。
自分の番だ、「何をしてた?」「自衛隊、警備員、そしてここへ。」「自衛隊とはカンボディアで会ったな。」・・・皆とも同じ様な会話 で終わる。

オバーニュで数回ルージュを見てきたが、自分の期のルージュは酷いものだった。
整列している時でも平気で喋る(これは此処だけでもなかったが)、CPLが見てる前で堂々と居眠りやら・・・上げていけば切りがなく、 本来優先される食事も他の志願兵の最後だったりと最悪だった。
さらには悪ふざけがすぎ扉のガラスを割った奴がいたりと、正直最悪。
嫌でも”外人はこんな輩しかいないのか?”などと思ってしまう。


慣れない言葉だけならまだしも、訳わからん行動を繰り返す外国人にはかなりまいっていた。が、それは自分だけではなかった。
キノシタもまた、パニック紛いな日常に辟易しており、嘗ての自分と同じく愚痴をこぼしていた。

木曜日にもなると、皆カステル行きの準備に入る。補給庫で一式の装備を受領し、バックに収納していく。
ところがこれがまたスムーズにはいかない、堂々と他人の装備の列に並んだりする輩も居、ほぼ皆SGT、CPLにどつかれる。
中には泣き出す者もおり、正に”軍隊”をかもし出していた。


この日からベレーの着用が始まった。
新品のベレーはフェルトが張って宙に浮いている、水でしっかり濡らし、しっかり絞って形を作る。

キノシタが別れを兼ねてふらっとやって来た、自分のベレー姿を見て一言、「カッコいい〜」
・・・んな訳あるか。


金曜日。
朝一で荷物をバスに積み込み、駅へ向かう。
隊舎を出る際、新たにルージュになった志願者と手を叩いてお互いを称える。

オバーニュに到着、SGTやCPLの荷物も手に、せわしなく乗り込む。
マルセイユ、乗り換え。ホームは見事に反対側だ。

我々はいそいそと、行列を作ってカステル行きの電車に乗り換えた。



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