高校に韓国語を:韓国語学習のすすめ

鹿児島県立開陽高等学校定時制

今給黎俊伸

 

本稿は、2005年11月5日・6日に開催された鹿児島教育研究集会「教育課程と高校教育改革問題」の分科会で発表されたものを一部編集したものです。韓国語・朝鮮語・ハングル・韓国朝鮮語・隣語などのさまざまな名称の中で、「韓国語」の名称を用います。

1 はじめに

 《受講する前は日本人は日本語と英語を勉強して、使う文字は漢字とひらがなとカタカナとアルファベットだということぐらいしか言葉や文字に対して考えていなかったけれど、「ハングル」を学習し始めて言葉や文字はそれだけではないとわかりました。そしてもっとたくさんのもっと違った文字や言葉を使う国や人々のことを考えられるようになりました。》

 《今回英語とは違う外国語を勉強して外国語を学ぶのは本当に大変だということを再確認し、でも楽しいことだということもわかり、英語を学ぶ意味もはじめてわかったような気がします。ハングルを学ぶことによって、苦手な英語でも意欲的に勉強していきたいと思うようになりました。》

 《外国語を勉強するということは同時にその国の文化を学ぶということ、その国の人々の声に耳が傾けられるようになるということだと実感します。ハングルの授業が私に新たな国際理解の扉を開いてくれたのです。》

 以上の文章は神奈川県のある高校でハングルの授業を半年間受けた時点での感想文の抜書きである。「ハングル」の授業を通して高校生の目が英語のみの学習をしていたときより大きく開き、「英語以外の世界がある、その違った世界についても知りたい・考えたい」というような関心を外に向けようとする気持ちがあらわれ、また、「ハングル」の授業を通して言葉の学習の喜びを感じ、英語学習へもチャレンジしようとする気持ちを生じさせていることが窺われる。

 私自身が韓国語の学習を通して、言葉を学ぶ喜びを感じ、日本と朝鮮半島との関係を真剣に考えるようになり、このことが日本と他の世界との関係を考えるきっかけにもなり、日本国内の在日の問題にも目を向けるようになってきた。私にとっては、韓国語学習が私に力を与え、目を外に向け、現在の私を内から動かしていると感じている。この点で、先ほどの神奈川の高校生の感想が私の心情と触れあっている。

 今回、「教育課程と高校教育改革問題」分科会で「韓国語学習のすすめ」と題したレポート発表をするのは、日本社会の中に韓国語学習者を増やしたい、このことが日本社会を変える原動力になるだろうし、高校生の個人レベルでも、彼らに自信を与え彼らの関心を、もっともっと外へ向けさせることにつながるに違いないと私が強く思っているからである。

 今後、さまざまな機会を捉え、さまざまな方法で「韓国語学習のすすめ」を叫んでいきたいと思っている。市民レベル、学校教育レベル、行政レベルなどへの働きかけが必要だと感じているが、今後、皆様の協力・支援をお願いしたい。

2 なぜ韓国語学習をすすめるのか

 1)韓国語は日本人にはとても学びやすい

  外国語の学び易さは、その外国語が日本語とどのような距離(関係)にあるかということと大きな関係がある。その点、韓国語は日本語と語順が同じだし、日本語の感覚で文章を作れるので、多くの学習者が学びやすいと感じながら学習していると思う。(但し、韓国語の発音はやはり、簡単には習得できない難しさがあると思う)

 a. 日本語と似た単語があります。

   次の韓国語の意味は何でしょう。語群から選びましょう。

  시간(シガン)      신문(シンムン)      도로(トロ)

  도서관(トソガン)    교육(キョーユッ

   (語群)   道路    教育    時間    図書館    新聞

 b. 漢字語は漢字を読めば単語ができます。

  会(・フェ) 社(・サ) 長(・チャン) 学(・ハッ)校(・キョ

  次の単語を作ってみましょう。

  会社  社会  社長  会長  学長  学校  校長

 c. 語順が日本語と韓国語は同じです。

  私は今、高校生です。来年の3月に高校を卒業して大学に行くつもりです。

  저는 지금 고등학생입니다. 내년 3월에 고등학교를 졸업해서 대학교에 거예요.

 2)韓国語学習は楽しいしおもしろい。

  「楽しい、おもしろい」の感覚はとても主観的だが、韓国語学習をしている人にはわりあいとこのような感覚で学習している人が多いと感じている。おそらく、わかる喜び、話せる喜びを感じられるからだろうし、日本語に近いと感じながら学習できるからだと思う。(ただし、あくまでも主観的な感じです。)

 3)韓国語学習は学習者に自信をつける可能性が大です。

  韓国語は日本語に近いため、学習しやすく理解しやすい。学習者に「自分も話せるようになるかもしれない」という自信を与える可能性が大きい。私の経験上ひとつの外国語を修得した人は、他の外国語もしっかりと修得できると思う。この意味からも、前書きで紹介した神奈川県の高校生が再度、英語に挑戦しようという気持ちを表していたが、韓国語が英語学習をはじめ、他の外国語学習につながる可能性もあると思う。

 4)韓国語学習を通じて日本と朝鮮半島との関係を考えるようになります。

  韓国語の学習をしながら、朝鮮半島の情報に接する機会が多くなるし、言葉の学習を通じて、その国の文化その他の事柄に興味を抱くようになる可能性が大きい。私自身が韓国語の学習を始めてから朝鮮半島への興味関心が高まり、日本と朝鮮半島との歴史や日韓関係などについて考えるようになった。だから、韓国語学習は日本と朝鮮半島との関係を考えるきっかけになり、韓国語学習を日本社会の中で広げ、定着させることは、日本と朝鮮半島との関係改善につながると強く思っている。

 5)韓国語学習は日本社会の在日問題に目を向けさせます。

  韓国語学習を通じて、日本社会に存在する在日問題を考えるようになる可能性が大きいと思う。もちろん、授業者の姿勢によりますが、現在の韓国語教師は在日・韓国からの来日者・日本人など様々な立場の人がいますので、学習者が日本社会の在日問題を考える場面が多く出てくると思う。在日問題を考えることは日本社会を考えることにもつながると思う。私自身が、韓国語学習を通じて在日問題を真剣に考えるようになり、また、在日の人たちと接するようにもなった。

 6)英語以外の外国語を学ぶことにより多元的価値観で考えるきっかけとなります。

  現在の社会を考えた場合、英語の重要性はもちろんのことだと考える。だから、学校に外国語の授業を設置するとき英語を設置することは当然の判断だと考えている。しかし、「英語さえできればいい」とか、「英語も出来ないのに他の外国語を学ぶなんて・・・」という考えには意義を唱えたい。 今日の社会を考えたときに、アジアとの関係を抜きにしては考えられない。だから、高校生に韓国語や中国語を学ぶ機会を作ることは高校生の個人レベルで考えても大いなる価値があり、日本社会の視野をもっと広げるのに貢献すると思う。

3 韓国語履修状況の現状

日本の学校における韓国朝鮮語教育:大学等と高等学校の現状と課題(国際文化フォーラム 2005)を参照。 http://www.tjf.or.jp/korean/chousa/ch2005_j.htm

 1)英語以外の外国語の履修状況(高校・大学関係)

  鹿児島県内で韓国語の授業を開設しているのは鹿児島東と開陽(全日・定時)のみであるが、日本国内の履修状況は別表の通りである。

 2)中国語と韓国語のおかれた立場の違い

   大学での中国語・韓国語の実施状況をみればわかるように、両者にはかなりの開きがある。また、中国語関係の学科が韓国語関係の学科より遥かに多く設置されているし、また、大学入試の2次試験で中国語で受けられる大学はあるが、韓国語で2次試験を受けられるところはほとんどない。これらの現実を考えるとき、やはり、現在の日本社会の韓国語に対する考え方に問題があるのではないかと考えている。中国語には敬意を表しているが、韓国語に対する敬意は低いのではないかと感じる。だからといって高校生が中国語を学習する意義を軽視しているのではない。中国語学習の意義は十分に承知しているが、韓国語学習の意義を強く宣伝しない限り、自然発生的に広がる可能性はそんなに強くないと感じている。

 3)今日の社会の変化

   現在の高校・大学などでの履修状況は英語に比べて低いが、それでも以前よりかなり増加してきた。今日の日本社会では確実に韓国語を受け入れる雰囲気が出てきている。ワールドカップ日韓共同開催、韓流現象などが追い風になっていると考えられる。このような社会的雰囲気のなかで、韓国語学習の必要性を強調していくことの重要性を感じている。

4 韓国語学習の導入にむけて

   まず、韓国語の授業を設置するには校内での合意が必要となる。教員の合意が得られ職員会で賛成が得られれば、韓国語の授業を設置することができる。その次に教える人の問題が出てくるが、鹿児島県の場合、特別に厳格な規定がないので、韓国語を話せるネイティブスピーカーが教壇に立てるはずである。(長崎県でも日本人と結婚した韓国女性が臨時免許で韓国語の授業を担当している)以上のことを踏まえれば、各学校で韓国語の授業を設置しようとの意志が生まれれば、韓国語授業設置が大きく前進し、鹿児島の高校教育改革に大きな息吹を吹き込むことが出来ると期待している。